配信

9月9日(水)配信 新見正則医院 院長 新見 正則 さん

医療は集団としての答えは知っている。でも、個人の答えは知らない。

新見正則医院 院長 新見 正則 さん

2026年8月25日 収録 / 聞き手:皆藤愛子

収録スタジオにて。聞き手は皆藤愛子

Listen to this episode

「結局、最後は直感が大事なんです」

— 新見正則 番組内より

新見 正則 (にいみ・まさのり)

新見正則医院 院長

1985年、慶應義塾大学医学部を卒業。同大学の一般・消化器外科で外科医としてキャリアをスタートし、がんの手術と病理診断に携わる。1993年から1998年まで英国オックスフォード大学医学部で免疫学を学び、医学博士(Doctor of Philosophy)を取得。帰国後は帝京大学第一外科に進み、がんのセカンドオピニオンを帝京大学病院で開始した。2002年に同大学医学部外科准教授、2008年より博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年、オペラ『椿姫』が免疫制御細胞を誘導するという研究でイグ・ノーベル医学賞を受賞。2020年、新見正則医院を開院。

Field Note取材メモ

  • 01

    集団の答えと、個人の答え

    医療が知っているのは集団としての答え。個人にとっての答えは、患者さん自身が知っている。

  • 02

    24時間、電話が鳴る

    困ったときにいつでも電話できるように。希望と安心を与えるクリニック、が理念。

  • 03

    10年ごとに、変わる

    20年前の自分には見てほしくない。今否定する医者の姿は、何年か前の自分だから。

  • 04

    椿姫と、オオカミの尿

    音楽で免疫が上がる。当帰芍薬散の香りでも上がる。ただし天敵の匂いを混ぜると効かなくなる。

皆藤:消化器外科のほかに、複数の専門医資格をお持ちだそうですね。

新見:外科という広い領域があって、その中にスペシャリティがある。内視鏡手術の専門医、心臓血管外科の専門医、消化器病の専門医。あとは漢方に興味があるので、東洋医学会の漢方専門医も持っています。

皆藤:それぞれの資格を取ろうと思われた背景には、何があったんですか。

新見:何でもやりたがりなので。ある程度ものを学ぶと、次がしたくなっちゃうんですね。ゼロからイチを作るのが大好きというか、工夫したり創作したりするのが好きなんです。ひとつ専門医を持つと維持も大変なんですけれども、また新しいことをしたくなる。

皆藤:クリニックを開業された経緯も、お聞かせいただけますか。

新見:2020年に開業しました。大学病院の定年を4年早くやめて開院したんです。外科医で、かつ免疫学者で、かつ漢方医という掛け算の人は日本でたぶん僕しかいないので、ずっと大学にいてもよかったんですけれども、せっかくなんで一回ぐらい開業してみようかなと。

皆藤:もうひとつ理由があったそうですね。

新見:がん治療はこの30年、40年ですごく進歩したんです。ただ、副作用があるんですね。手術は切らなきゃいけない。抗がん剤も放射線も副作用がある。副作用がなくて、それでも成績を伸ばすものはないかな、とずっと探してきて。巡り合った薬があったので、その効果も試したくて開業しました。

皆藤:開業されて、いかがですか。

新見:資金がまったくなかったので、一切資金を必要としない開業をしたんです。だから道具もない。お話を聞いて、生薬を使う。生薬は多成分系の薬剤で、西洋薬とは違います。それを使いながら、患者さんのがんとの共存を進めている。9割ぐらいががんの患者さんで、残り1割が難病です。

皆藤:スタッフは何人ほどいらっしゃるんですか。

新見:実は、うちのかみさんと僕だけです。

皆藤:お2人で。

新見:忙しいので、外注して、物を詰めてもらったり、配送やホームページの管理をしてもらったり。僕にできない細々したことは、若い人の知恵を借りて助けてもらっています。

皆藤:遠隔での診療をされていると伺いました。初めは必ず来てください、ということも。

新見:もう全部遠隔でいいです。電話でもビデオでもいい。患者さんのほとんどは日本中、隅から隅までです。今は道具がいいので患者さんに負担がかからない。だから、困ったときにいつでも電話できるように、24時間365日対応しているんですよ。

皆藤:どんな時間帯でも。でも、先生ご自身が大変になってしまうのでは。

新見:外科医は緊急手術が多いので、その対応はそんなに苦じゃないんですよね。それに、自分や身内が病気になるとすぐ相談したくなるでしょう。次の外来まで話ができないのは不安なんですよ。だから、うちの理念は「希望と安心を与えるクリニック」。希望とは、がんの場合には延命できるよ、ということ。安心とは、何か心配なら電話すればいいよ、ということです。

皆藤:ご著書は漢方に関するものが数多くありますが、出会ったきっかけは何だったんですか。

新見:1998年にイギリスから帰ってきて、セカンドオピニオンを始めたんですね。日本で初めて、保険診療で、大学病院で。メディアに取材されて、日本中から患者さんが見えるようになりました。

皆藤:どんな方がいらっしゃるんですか。

新見:納得できない、もっと良くなりたいから来るんです。ところが9割の人は正しい医療をされている。だから、しょうがないよね、という話になる。ずっとそうしていたら「先生、話ばっかり聞いてないで、せめて治してくれ」と言われて。治せるわけないじゃん、と思ったんですけど、そのときに「漢方なんか使ってみませんか」と。

皆藤:先生はエビデンスの世界にいらっしゃったわけですよね。

新見:オックスフォードで、疑問に思ったことを実験して証拠を出す世界を生きてきたので、経験値だけのものは嫌いだと言ったんです。でも「保険が効きますから、せめて使ってくれ」という言葉に引かれて使ってみたら、悪くないなと。上手に使うと効果が出るんです。副作用もそんなにない。

皆藤:その道の師匠にも出会われたとか。

新見:行き詰まった頃に、僕はなんと運がいいので、松田邦夫というとてもいい師匠に出会いました。そのもとで週一回勉強をして、漢方の世界ではまあまあのところまで行きましたね。

皆藤:お医者さんとして、最も大切にされていることは何ですか。

新見:僕は実は10年ごとに変わってきているんです。少なくとも20年前の自分には見てほしくない。横柄だし、上から目線だし。特に40年前のフレッシュマンなんかとんでもないですよ。

皆藤:10年ごとに何か進歩されている。

新見:40年前は、医者になって僕は偉いんだ、だからみんなに医療を提供するんだ、という感じでした。10年してイギリスに行って、世の中にはこんなに知らないことがあるんだと、ちょっと謙虚になった。日本に帰ると大学病院にいたので、また偉そうになって。セカンドオピニオンをやって、世の中こんなに治らないんだ、と分かって。

皆藤:今は。

新見:延命を望む人もいるけれど、それよりも幸せに生きたい。患者さんが幸せになることと延命は、いつも同じじゃないんだな、と今は分かっているんです。

皆藤:毎朝、犬の散歩のときにお祈りをされるそうですね。

新見:東京大神宮という、伊勢神宮の東京支店みたいなところが前にあるんです。昔は「長生きさせてください」とお祈りしていたと思うんですね。今は「患者さんが希望どおりの人生を送れますように」とお祈りしています。

皆藤:その方の希望を尊重する。

新見:長生きしたいと言えばそうしますし、辛い治療をするよりこのままがいいという人はそれでいい。ただ、いろんなことを知った上で選んでほしいんですね。情報がないのに上から目線で強制するのが、まだ日本には残っている。

皆藤:どうして、先生の中でそういった変化があったんですか。

新見:いろんな人に出会ったことが大きいと思います。僕が今否定する医者の存在って、何年か前の自分なんですよ。あなたは嫌いだけど30年前の僕だよ、君は特に40年前だよね、とよく分かる。それに、僕ももう人生の3分の2は終わっていますから、どうやって生ききるんだろう、というのがテーマになる。そうすると、長生きだけじゃないよな、と思うんですね。

皆藤:ご専門は。

新見:外科学、免疫学、東洋医学。その3つが専門です。

皆藤:2013年のイグノーベル医学賞は、どんな研究だったんですか。

新見:オペラの『椿姫』、英語ではラ・トラヴィアータという曲を聴かせると免疫力が上がる、という研究なんです。

皆藤:でも、ネズミなんですよね。

新見:そうです。でもこれって、多くの臨床医が持っている感覚なんですよ。心の具合が病気をやっつける。やっつけるというのは免疫力です。ストレスがかかると病気になりやすいよね、と。それを証明したかったんですね。

皆藤:どうやって証明されたんですか。

新見:もう15年ぐらい前の論文です。ネズミの心臓移植は当時できる人が少なかったんですが、それを使って実験を続けました。音楽を聴かせる、聴かせない。あとは、においとか。

皆藤:においも関係するんですか。

新見:漢方のあるにおいを嗅がせると免疫が上がるんです。当帰芍薬散という漢方なんですけども。ところが、そこにネズミの天敵であるオオカミのおしっこのにおいを混ぜると、効かなくなるんです。

皆藤:それ以上にストレスがかかる。

新見:だから言いたいのは、何が大事かというよりも、心地よい環境が大事なんですよ。そういうのが証明できてよかったなと思っています。

皆藤:人でも同じことが。

新見:12年、13年たって、人間でも感染したような環境をバーチャルで見せると、感染に対する免疫力が上がるという結果が出ました。去年のネイチャーに。

皆藤:私たちは知らないですけど、直感では分かっている気もします。風邪をひいた気がすると母に言ったら「走ってらっしゃい」と言われたことがあって。何を言っているんだと思ったんですけど、それも合っているんだなあと。

新見:いろんなことを、みんな経験的に知っているんですよ。

皆藤:自分に合ったものは、先生に診ていただければ分かるんですか。

新見:お話をしながら、あなたはそういう性格なんだね、こんなことをしてみたら、という提案はできるんですよ。でも、答えは患者さんが知っているんです。

皆藤:答えはご本人が。

新見:医療は、集団としての答えは知っているんです。でも個人の答えは知らない。ワクチンは多くの人にとってはいいけれど、何人かには副作用が起こる。がんの治療も、多くの人には延命になるけれど、何人かには命を縮めるんです。

皆藤:集団と個人。

新見:医療サイドがお話しするのは集団としての答えです。個人としての答えは分からない。そこを分かってもらえると、いろんな話が腑に落ちる。勉強方法でも英会話でも、多くの人に当てはまっても自分は違うかもしれない。医療も同じです。

皆藤:以前は、そう思っていらっしゃらなかった。

新見:昔は上から目線で、なんで多くの人がすることをしないんだと強制するわけですよ。20年、30年前の僕は。でも今は、人はいろいろだよねって。直感でしたくないんなら、まずやめてみたら。やりたくなったらすればいいよ、と言っているんです。

皆藤:100人に100人当てはまるなら、強制されてもいいですけど。

新見:ワクチンでもがん治療でも、何人かはちょっと不幸になるんです。だから、結局、最後は直感が大事なんです。

皆藤:新たに研究されようとしているのは何ですか。

新見:この年になってできることは創薬です。漢方は生薬の足し算なんですね。新しい薬を作るのは普通は大きな製薬会社しかできない。何億円とお金をかけないと。でも生薬は足し算なので、研究室を持たない開業医になっても新しいものを作れる。今はがんに効く生薬の組み合わせを研究しています。結構効くんですよ、今の段階でも。ただ、もっと効かせたい。

皆藤:いずれ、100人に効くものに。

新見:それはもう最終目標ですね。でも今は、少しでも多くの人に効く、少しでももっと効く、だから長く生きられる。そういう薬を探したいなと思って頑張っています。